スプリーム誕生秘話

理美容教育出版株式会社発行『PROF RIKEI 2007 MARCH No.560』に掲載された弊社開発責任者に対するインタビュー形式の特集記事です。


誕生までの時間

2006年度のグッドデザイン賞を受賞した株式会社東光舎のジョーウェル・スプリーム。これまで数々のハサミを日本国内はもとより海外へ発売し、多くの技術者から支持を受ける老舗メーカーにおいて、「世界中のヘアスタイリストがほしくてたまらない・手放せなくなる“品質”にこだわったハサミ」を満を持して昨年3月に発売した。品質や機能はこれまでの蓄積と多くのユーザーの声を元にして作られたジョーウェル・スプリーム。そのデザイン、魅力を開発担当者である外川祐二開発室次長(以下、外川氏)に誕生秘話を伺った。

「はじめに今回のジョーウェル・スプリームのこだわり・特徴をお話しておきます。ひとつは永切れと開閉感の軽さ(機能性)、もうひとつは使いやすさ・やさしさ(操作性)です。永切れ・開閉感の軽さの追及では素材選びから加工方法・信頼性モニター及び実証実験などに約2年。また機能性と・操作性を満たしたデザイン開発と、モニターにも約1年を要しました。構想から発売まで約3年もかかってしまいましたがベストな状態で発売したかったので…」と外川氏は言う。

開発にたずさわった人はどのくらいいらっしゃいますか?

「今回に関しては、企画製品開発担当者は私ひとりです。ですが新コンセプト商品というのは、その企画を進行していくうえで多くの方からの協力があって生み出されるものです。その意味では実証実験や解析などで弊社の井上本部長、職人の方々、協力メーカーやモニターとして協力いただいた美容師の方々を含め総勢20名ぐらいの方が関係しています。」


技術者の声を直接拾うことからスタート


詳しい開発のきっかけをあげるとどんなことがありますか?

「この企画をする前に日本全国の理美容師約500人に、“ハサミを購入する場合の選択基準は何ですか?”というアンケート調査を行ないました。その中から見えてきたものは『プロが使う道具としてまだ何かが足らない』ということでした。結果的に価格が少し高くなったとしてもさらに高品質(機能・使用感・感性)なものに対する要求はあるなと感じました。」

マーケティングを行なったということですが具体的にはどんなことを聞いたのですか?

「まず、お客さまの声を直に聞かなければどんなものがほしいのかわかりません。そこで私が直接全国各地のヘアサロンへ伺い声を聞いてきました。土地勘のない地方都市や青山原宿など有名店のあるところまで幅広く調査しました。アンケートの質問内容は、『ハサミを選択する場合のポイントは?』『現在どのようなサイズのものを使っているのか?』『ハサミに対する不満な点は?』などです。」

その際に、『品質』というキーワードが出てきたようですがそれはどんな理由からですか?

「独自のアンケート調査の結果を一言で言うと『それぞれの想いの中で、より良いものが欲しい』『満足していない』という素直な意見が多かったことです。より切れ味良く、永く切れ、より滑らかに、より使いやすくなどです。また最近は見た目のデザインも重視する方も多くなっています。つまりは、“品質”なのです。あらためて品質の追求はエンドレスということを実感しました。
『ハサミを選ぶときに重視する点は』という問いで、もっとも多いのが“使いやすさ”です。続いて切れ味、永切れ、デザインなどです。この“使いやすさ”というのが一番やっかいで、漠然と“使いやすさ”といわれても千差万別です。手の大きさも違いますしカット技法も変化します。使いやすさの基準みたいなものがつかめないのです。そんな中でも、ジョーウェル・スプリームは今考えられる高品質なものが出来たと思います」


価格以上の製品価値へ

これまでもジョーウェル・クラッシックシリーズという定番中の定番のハサミがあります。その他にもたくさんの種類のハサミを開発されてきて、ここでなぜこの新製品を企画されたのですか?また、価格帯もその他の製品に比較して高価格帯ですが?

「これまで永くご愛用いただいているシザーズとは違うコンセプトでシリーズ化したいという思いが強くありました。そこで全国規模のマーケティング調査をしたところ、“高品質”というテーマが浮かび上がり企画しました。これまでジョーウェルは6万円台がもっとも高い価格帯だったのですが、“品質にこだわったハサミ”がコンセプトだったことと、500人のアンケート調査から本当に価値のあるものは、ある程度高く受け入れてくれるという感触があったので7万6千円での発売となりました。自分で言うのもなんですがジョーウェル・スプリームは価格以上に価値のあるハサミだと思っています。品質・スペックを比べればその違いがわかります。
ちょっと話がそれますが、市場に出回っている理・美容ハサミで品質価値と価格のバランスがあまりにもかけ離れているものを見かけることがあります。なぜ高いのか? なぜ安いのか?が説明がつかないのです。せっかく、高いお金を出して買ったハサミなのに、少しでも不満があればその期待を裏切ってしまう、そういったものが世の中に出回っているわけです。当社はそのようなことが無いよう、製品価値に見合った価格設定を心がけています。」

他社も含めていろいろなバリエーションのハサミがありますが、今後はどんな展開をされるんですか?

「このジョーウェル・スプリームのシリーズを拡大します。今はセミオフセットハンドルのカットハサミ2サイズだけですが、今後はスプリームのブランドイメージを保ちつつスキハサミやハンドル違いサイズ違いなどを追加する予定です。全部で8アイテム以上になると思います。」


卵カバーの理由

1番時間がかかったことはなんですか?

「刃材の加工方法と、開閉感を軽くするための軸ネジ部(ドライベアリングシステム)の開発です。あと卵カバーの色と質感にもこだわったのでサンプルに時間がかかりました。いすれにしても新しい要素に対する信頼性試験・モニターに時間をかけました。」

素材、材質などいろいろあると思いますが、なぜジョーウェル・スプリームにはこの素材を選んだのかを教えてください。

「スプリームに使用されている刃材はCBA-1です。CBA-1というのはコバルトベースアロイという、希少金属のコバルトをベースにクロム、タングステン、カーボンを含有しているコバルト基合金の略称です。この材料は価格が高く加工も難しいのですが、耐摩耗性・耐食性・耐薬品性に優れていて一般的に使用されているステンレス鋼(SUS440C相当)の約2.5倍永く切れます。また、最近求められているドライカットにも適しています。またハンドル部には硬質チタンコーティングが施されています。」

ジョーウェル・スプリームの見た目の質感は、ダークな色合いで高級感のある感じです。またこの回転部分のネジは他のハサミにはないデザインですがその理由は?

「表面色合いは硬質チタンコーティングが施されているためです。これにより(金属アレルギー(ニッケル)の方でも心配ありません。また表面高度がHV3000と高くキズ防止の効果もあります。ちなみにヨーロッパではハンドル部がアレルギー対応になっていないとマイナスポイントになります。一般的なハサミは回転軸部のネジが出っ張っています。この突起はカットするうえで邪魔になる場合がありますし、技術者が腰に付けているシザーズケースに出し入れする際、引っかかって困っている方は実は多いのです。あとジョーウェル・スプリームのブランドイメージが一目でわかるようなデザインを加えたかったので当社商標であるニハトリにちなんでチタン製の卵形状のカバーを取り付けました。卵カバーに入っているブルーのロゴ・マークは特殊処理方法をすることで硬くてきれいな色合いを出すことに成功しました。

メンテナンス方法はどうすればよいですか? 自分で出来るメンテナンス方法を教えてください。

「永く使うためのポイントですが、ハサミを使用した後は刃先端に目では見えない細かな返り刃(金属粉)が発生します。これをセーム皮(小鹿の皮をなめしたもの)でまめにふき取ることで、より永く使うことが出来ます。およそですがセーム皮でまめに手入れする方はしない方より2〜3倍切れ味が長持ちします。毎日セーム皮でお手入れすることをおすすめします。」

オイルを注す必要はないのですか?

「基本的にジョーウェル・スプリームはオイルを注す必要はありません。なぜなら、前にも話しましたが、CBA-1の刃材はまったく錆びませんし、ネジ部のベアリングと触点部分はすべり性の良い樹脂を使用していますので。ただし、ハサミは刃物ですからいくら永切れする素材・手入れをしたとしても徐々に切れ味は落ちてきます。またハサミを落とした場合は刃が欠けたり開閉の調子がおかしくなります。そうなってしまったらスプリーム専用のアフターサービスシステムがありますので利用してください。」

                                                       以上


『PROF RIKEI 2007 MARCH No.560』(鋏マニュアル/道具をもっと知る〜 Part2シザーズメーカーに聞く: 『グッドデザイン賞』を受賞したあのシザーズ』株式会社東光舎)掲載

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